新茶の季節が到来すると、お茶愛好家はもとより、日頃からお茶に深い関心を持たない人々も、「新茶」と記された商品に心が弾むことでしょう。
特に、「夏も近づく八十八夜~♪」のフレーズで知られる八十八夜に摘み取られるお茶は、古来より縁起の良いものとして珍重されてきました。
それにもかかわらず、八十八夜の真の意味や背景を詳しく知っている人は少ないかもしれません。
今回は、八十八夜の本来の意味、その読み方、そして八十八夜に採れる新茶がなぜ縁起物とされるのか紹介します。
また、2024年における八十八夜の正確な日付などを掘り下げてみたいと思います。
八十八夜の意味や読み方は?
八十八夜は、春の終わりを告げる重要な節目とされており、読み方は「はちじゅうはちや」です。
多くの人が具体的な意味を知らなくとも、名前自体には親しんでいるかもしれません。
この日を広く知られるようにしたのが、学校の音楽の授業で歌われる文部省唱歌の「茶摘み」です。
この歌は日本人なら誰もが一度は耳にしたことがあり、「八十八夜」のフレーズと共にお茶摘みの情景を浮かべることが多いでしょう。
また、八十八夜は春から夏にかけての気候が安定し、農作業に最適な時期とされています。
数字の「八十八」が「米」と視覚的に類似していることから、農家にとっては種まきのタイミングとしても重視されてきました。
「八十八夜の別れ霜」という表現があります。
これは八十八夜を境に霜が降らなくなることを示しており、この時期が種まきをはじめとする農作業を行う適切な時期であるとされていました。
ただし、この後にもう一度霜が降ることがあるため、その時は「八十八夜の忘れ霜」と呼ばれ、農家は油断できない状況にあります。
八十八夜の由来について
八十八夜の由来について掘り下げると、昔の日本では現在の太陽暦ではなく、月の満ち欠けを基にした太陰暦が使われていました。
太陰暦は約355日の年間周期を持ち、太陽暦と比べると毎年約11日のずれが生じます。
このずれが積み重なると季節感と暦が大きくずれてしまうため、季節の正確な区切りを設ける二十四節気が考案されました。
夏至や冬至など、今でも耳にするこれらは二十四節気の一部です。
しかし、二十四節気だけでは季節のズレを完全に修正することができなかったため、さらに細かい区分として七十二候や雑節が作られました。
節分や彼岸など、私たちがよく知るこれらも雑節の一つです。
八十八夜は、立春から数えて88日目にあたり、農業を中心とした生活を送っていた当時の人々にとって、種まきや田植えに最適な時期とされていました。
また、「八」が縁起の良い数字とされ、また「八十八」の数を組み合わせると「米」となることから、農作業を始めるにあたって縁起が良いとされました。
二十四節気は中国起源であり、日本とは気候が異なるため、雑節は日本独自の暦として発展し、より日本の風土に合った季節感を反映しています。
八十八夜2024年はいつ?
2024年における八十八夜は、5月1日(水)です。
名前が示す通り、八十八夜は88日目を意味しますが、その起点がいつなのかが疑問に思われるかもしれません。
この日は、立春を起点として88日目にあたる日です。
立春は、二十四節気の一つで、季節の始まりを告げる日です。
ただし、立春の日付は毎年一定ではなく変動するため、それに伴って八十八夜の日付も年によって変わることになります。
なぜ八十八夜は日ではなく夜なの?
八十八夜がなぜ「日」ではなく「夜」という言葉を使うのか、その点について疑問に感じる方も多いかもしれません。
実際、雑節には「二百十日」や「二百二十日」といった、明確に「日」を指す言葉が含まれるものもあります。
ですが、八十八「夜」には特別な意味が込められていると考えられています。
一つの説として、昔の人々が太陰暦を用い、月の満ち欠けを基に日々を数えていたことが挙げられます。
夜、月の姿を確認することで日付を判別していたため、「夜」という言葉が暦に関連する用語として定着した可能性があります。
さらに、月の周期が約29.5日であることから、3か月後には88.5日となり、この時期に具体的に月の状態を観察して農作業の時期を判断していたとも言われています。
このため、八十八夜目の月を基準にして種まきや田植えを行う習慣があったと考えられ、そこから「八十八夜」という言葉が生まれたという説もあります。
いずれにしても、古い時代には月が人々の生活に深く関わっており、それが今日に伝わる名称や習慣に影響を与えていることがうかがえます。
なぜ八十八夜に摘んだ「新茶」が縁起ものなの?
八十八夜に摘まれる新茶が縁起が良いとされる背景には、古くからの信仰や習慣が影響しています。
お茶の木は一度植えると長い年月を通じて同じ場所で育ち続ける特性があり、「嫁ぎ先にしっかりと根付く」という意味で、結納品として選ばれる地域もあります。
また、お茶が古代より薬用としての役割を持ち、健康や長寿を願う飲み物として珍重されてきたことも、新茶を縁起物として捉える理由の一つです。
新茶は年に一度の最初の収穫であり、特に栄養価が高いとされています。
この栄養豊富な新茶を飲むことで、無病息災や健康を願う習慣があります。
科学的な分析技術が発展する以前から、人々は経験に基づいて新茶の特別な価値を理解していたと考えられます。
新茶の美味しい淹れ方にもこだわりがあります。
旨味や甘みが豊かな新茶は、約70℃のお湯でゆっくりと淹れることで、その風味を存分に引き出すことができます。
一方、苦味や渋味を好む場合は、やや高温のお湯(約80℃)で淹れることで、より味に深みが増し、引き締まった味わいを楽しむことが可能です。
八十八夜にお茶摘みをする理由
「茶摘み」という歌によって八十八夜に茶摘みを行うイメージが広まっていますが、実際には茶産地ごとの気候差によって茶摘みの時期は異なります。
特に、八十八夜の頃に茶摘みが行われるのは関西地方が多いようです。
この時期になると、作業服を着た女性たちが歌いながら茶の新芽を摘む姿が、春の風物詩として報道されることもあります。
八十八夜に収穫される茶葉は「新茶」と呼ばれ、その香りの良さと、テアニンという成分の豊富さが特徴です。
テアニンはお茶の旨味成分であり、リラックス効果や集中力向上などの効果が期待されます。
さらに、八十八夜に収穫されたお茶を飲むことで長寿を得られるという言い伝えもあるため、この時期に摘まれる新茶は特別な価値を持つとされています。
八十八夜の別れ霜と泣き霜とは?
立春を春の訪れとする日本の伝統的な考えに基づき、その後の88日目を指す八十八夜は、天候が安定し、霜が降りなくなる時期とされていました。
このため、農家ではこの日を農作業の本格的なスタートラインと位置づけ、「八十八夜の別れ霜」という言葉で、この時期までには霜が終わり、種をまく適切な時期であると考えられていました。
太陰暦を使用していた昔の日本では、このような具体的な日付を農作業の目安として重宝していました。
しかしながら、年によっては気候変動により、八十八夜を過ぎても霜が降ることがあります。
このように春先に予期せぬ霜が降り、農作物に被害を及ぼすことがあるため、農家にとっては大きな懸念事項です。
この霜を「九十九夜の泣き霜」と呼び、八十八夜を過ぎた後も約11日間は警戒が必要であるとされています。
この言葉は、農家が直面する自然の厳しさと、農作物を守るために彼らが果たさなければならない努力を表しています。
八十八夜2024のまとめ
八十八夜は、雑節に数えられ、立春から数えて88日目を意味します。
2024年における八十八夜は5月1日(水)です。
古くからこの日は、農業の重要なタイミングである種蒔きや田植えの開始時期として注目されていました。
この時期に収穫される茶葉から作られる新茶は、幸運を呼ぶアイテムとして現代でも価値を見出されています。
ただし、新茶が縁起を担ぐだけでなく、他の時期に摘まれるお茶と比較して栄養価が高いことも特徴です。
甘みや旨味が際立つ栄養豊富な新茶をこの機会に楽しんでみるのはいかがでしょうか。